手痛い失敗は、今回ばかりではなかった。やっぱり相手は選ばなきゃなんない。
「カイシャとカイシャに付随するシゴト」に献身する女たちにとって、僕のようにヘラヘラ生きてる男は、いわば「天敵」でしかないことを、僕は数年前の失敗で十分に学んだはずだった。ところが、ほぼ同じコミュニケーションの道をたどって行き着いたのは、ほぼ同じような結末で、僕は見事に「最低な男」となじられてコミュニケーションを切断されることとなった。
　警戒せねばならない。彼女の所属する「カイシャ」の悪口雑言は命取りである。
　油断は大敵だ。彼女にとって、存外「カイシャ」とは「シャカイ」そのものである。
　こちらの独善的主観は通用しない。なぜなら、彼女の「カイシャとカイシャに付随するシゴト」におけるキャリアと意欲と観察力こそが、彼女の価値観のすべてなのである。
　僕は「悪口雑言」と「油断」と「独善的主観（ん？主観的独善か？）」がすべての人間だから、コミュニケーションでは遊び、遊ばれることを良しとする。
　数年前、ある出版社の女性にホレこんだ。酒席を伴にし、メール交流もした。超多忙を極める彼女の圧倒的カイシャ人生にあきれ果てた僕は、彼女のカイシャをアホ呼ばわりした。なぜなら、ほぼ人権無視の強制労働生活としか彼女の暮らしぶりがメールで届いて来なかったからだ。結果は、前述した通りの教訓となった。最後通牒はある日突然やってきて、彼女がその中規模程度の出版社で労働組合委員長に就任したばかりであったこと、さらには初めて知る彼女のプライベート事情まで洗いざらいぶちまけた激怒メールが、それまでの交流を切断する宣言文として送られてきたのだった。他人の人生を何も分かっちゃいないクセに、というのが共通する最後通牒で、だからこそ「最低な人間」という推奨ラベルを貼られることとなる。
　で、本日も少しばかり年若い女性だったけれど、ものの見事に前車の轍を踏んだというワケだ。メールを開け、瞬時に僕は失意のズンドコ節を歌うハメに陥るのだが、絶望はまた大いなる無謀な勇気への序奏と考えられるタチなので、次なる女性との出会いの意欲をかき立てるのであった。
　僕は、どんな女性にも「カイシャ（あるいはショクバ）とカイシャに付随するシゴト」の他に、もっと人間的な、個人的な興趣というものがあるのに違いないという予断があるので、最初っからそのようなコミュニケーション手段で接するのだが、早いハナシが最初から最後まで、そこには大きなズレがあったワケだ。そのズレとは、結局「警戒感」のようなもので、僕の最大のヨロコビは、新たに出会う女たちの僕に対する「警戒感」という衣服を、１枚１枚はがしていくところにあるワケで、オーバーコートの下にジャンパー着て、ジャンパーの下にスーツ着て、セーター着て、シャツ着て……最後の下着を脱がせてみたら、そこに鎧着てたなんてコトになるのかも知れない。
　ふんむむ。ちょっとだけ反省して、また別のPillow Talkの相手を探そう。ひゃひゃ。