このところ酒席を共にしたいずれも若い女性から「ケツが青い」というコトバを立て続けに聞いた。1人は21歳で別のもう1人は確か25歳ほどのレッキとした若い女性で、それぞれ別の機会にただし同じジャズバーでのおデートをしたのであった。
　残念ながら僕のおデートはバーが退けたらどこかにしけ込むようなフルコースではないので、彼女たちの若く美しいはずのお尻を見たことはないし、その尻が青いのかどうなのかパンツを脱がしたワケでもないので知らない。
　21歳の女性から「ケツが青い」というコトバが発せられた経過はこんなものだ。
　彼女が奇特にも50男のこの僕に会いたいと思ってくれるのは、どうやらあまり常識人でない中年男さえも自分は議論や立ち居振る舞いで挑発できると踏んでいるフシがあって、反応を確認したいという動機も隠されているはずなのだ。彼女と僕が一緒に飲んで語らっていたところに、そのバー常連客のあいだで驚異の知性を畏れ敬われている壮年の美しきゲイが加わったのだった。すると、大抵のゲイがそうであるように彼女(ゲイのこと)は若い女たちを軽蔑しているから、いくら生意気とはいえ21歳の娘っ子なんぞまるで相手にせずに僕にばかり話し掛けることとなる。好奇心あふれる若い娘はそれでもへこたれることなく何度か会話に潜り込もうとするのだが、結局相手にされずに酒席を後にする時間となってしまったのだった。僕がその様子をこのHPの日記に書いたことがあって、その時僕の使った表現は「ゲイの彼女は21歳のションベン臭い娘っ子など相手にしなかった」というものだった。娘っ子はその日記の文面を目にして即座に僕にメールを送ってきた。
「ションベン臭いとは失礼ネ。せめてケツが青いと言ってよ」
　少なくともこうした会話のウィットを有する女性なので、彼女はその年齢で十分に知的であり、それこそ彼女との会話に僕が退屈しない最大の理由でもある。ところで娘っ子の抗議メールに対する僕の返事は以下のようなモノだった。
「ケツが青い」というコトバから真っ先に連想するのは「青二才」で、そりゃほぼ若い男を愚弄するイメージなんで、やっぱり「跳ねっ返り」の若い娘をからかう時には僕は「小便臭い」を使いたいナ、という内容だったはずだ。
　別の25歳の女性の場合、話はもう少し単純で、酒席で少し度を過ごした彼女が泥酔し、翌日になって「ケツの青さを露呈しちゃった」旨の発言を酒場のBBSに書き込んだのだった。それが流行りなのかどうなのかは知らないが、難解な言辞の詩を書く反面、彼女のしゃべり方は高校生男子体育会ノリで、そうした話法を使うことによって故意に自分を蔑んでいる風情もあるのだった。

　そりゃそうだよナ、と改めて思う。なにしろ僕は彼女たちの父親世代の男だし、年齢差というギャップは逆立ちしたって埋まるモノではない。彼女たちに比べて少しぐらい知識のアドバンテージがあってもおかしくないし、感情のコントロールを便利に利かせるコトにも長けているだろう。彼女たちを見て「ケツが青い」または「小便臭い」と思うのは当然ではないか。
　ところが同時に、僕はこの若い女性2人の大いなる共通点を感じて少し狼狽える。両者とも抜き差しならないほど愛情あるいは恋愛に飢えていて、僕自身の対象になることはなくても、その存在自体がとても「性的」なのである。
　ふと思ったのは、こんなコトだ。若く愛情に飢えた女の尻は蒼いのであり、蒼い尻の女は小便臭いのであり、結局それは若い時代にのみ女が放つ性フェロモンなのかも知れない、と。