「はぐはぐ」は気持ちいい。なによりも「はぐはぐ」できる人間関係でいられることの ヨロコビをその瞬間に感じられるから。「hug」すなわち「抱き合う」ことだ。
　もちろん僕や僕の周囲の日本人に昔からあった習慣ではない。少年だった昔は、自分に恋人ができたらきっと抱きしめられるんだろうという性的願望はあったが、その当時は むしろビートルズなんかの歌詞にもあった「hold someone tight」なんてコトバの方に関心が行っちゃっていたので、「hug」は生活実感のないものだった。
「じゃ、キミ、出掛けてくるヨ〜ン」とか言って、ワイフと生活の折々に「hug」する 習慣も生まれなかったので、いよいよ「hug」は縁遠いモノだった。
　後年、外国の友人ができて、彼らとの久しぶりの逢瀬や別れの場面で「hugされる」 ことが多くなった。とっても切なく、気持ちいいモノだと気づいた。女友だちの方は、 ついでにほっぺにキッスもくれる。ひんやりとした唇の感触も、「切な気持ちイイ」と いうことに気づいた。
　こりゃ、いかん。こりゃ、さっさと自分の生活習慣に堂々と取り入れないと、あとで 後悔することになるに決まっている。もうじき人生は終わっちゃうのだ。
　ということで、数年前に「ニッポンのオジサン」相手にコレを挙行した。青森から やって来たオジサン、岡山のオジサン、浜松のオジサンを「はぐはぐ」した。彼らとは ネット上だけのつきあいだったのに、共通の趣味のアメリカン・ベイスボール観戦を期にしての、まったくの初対面だった。その反応が興味深かった。極めて単純かつ明解。 「ウレシー！」というものだった。
　ニッポンのオジサン相手に「はぐはぐ」するのもイイけれど、それでも僕はやっぱり 女性と「はぐはぐ」したいのが本音だ。
　ところが当の僕は滅多に風呂にゃ入らない不潔漢だし、酔っぱらいだし、おマケに当世のセクハラ疑惑に脅える身の上だから、女性相手にはかなり神経をスリ減らした前哨戦を行わなければならない。もちろん相手の年齢は、まるで問わない。
　で、僕にとっての「はぐはぐ」のチャンスは、ごくたまに玄関のドアを出て、新宿あたりで飲みましょうという酒席の機会に訪れることが多い。そこにチャーミングな女性が 参加していたら、こりゃなんとも「はぐはぐ」したいと思う。もちろん、女性なら誰でもイイとは言わないし、あくまでハナシが大盛り上がりという実感があった場合のみのことだ。つまり、友人関係成立！のアカシとしての行為なのだという言い訳を、知らず知らずのうちに自分に科しているワケだ。
　つまり、ここでこうして書いているような意味の前フリを酒席でする、という情けないほどの野暮を演じるのだ。
　でも、これだってちゃんと戦果はあるのだ。今年はこれまで、２０歳の人妻とそのご亭主、２６歳の魅力たっぷりな女性と「はぐはぐ」できた。
　またまた僕の野暮なとこ。それでもどこか心配だから、相手が「はぐはぐ」してきて くれたら「はぐはぐ」し返すこと。それしかできないんだなぁ〜、コレが。
　それにしても、朝まで飲み明かした相手と、早朝の新宿の街角でする「はぐはぐ」は、やっぱり「切な気持ちイイ」んだなぁ〜。