■池の上のカモ

　ほんの数日前、夜の10時過ぎのNHKを見ていたのはスポーツニュースだったからだ。Jリーグの結果やら何やら、僕はワイフと見ていたのだが、ちょうど大リーグ関連の情報の終わりがけで、「さあ、日本人選手があちこちで活躍し身近になった大リーグの野球英語を今日からシリーズでご紹介していきます」となったので、僕は注目したのであった。その第1回目に登場したのが「満塁」に関する表現で、「フルベースと言うのは間違いなんですネ。正しくはbases fullと言うのです」などと、ごもっともな紹介。他にも「bases loaded」「bases juiced」「bases drunk」「bases jammed」が例に出されて、それぞれの和訳がヒッチャカメッチャカなのが面白く、しかもソレの和訳提供者がまるで野球通でないのが分かってしまうのであった。「bases jammed」は交通渋滞に引っかけて「ベイスが渋滞」と翻訳されるのだが、例えば「He jammed it.」と聞こえる実況では「打者が詰まった当たりを打つコト」なので、「ベイスが詰まる」が正しい感覚理解につながるはずなのだ。ま、ソレはどーでもイイ。
「さて、面白い表現にこんなのがあります」と紹介されたのが意外なモノだった。すでに僕の塁球英語辞典「D」項目でも紹介しているが、「ducks on the pond」が満塁のコトだと平然と言い放っていたのである。コレには、僕とワイフが互いの目を見合わせた。なぜなら、僕でなくともこのコトバに関してのみワイフでさえ知っている特別な英語だったからなのだった。もう7〜8年前になるのかNHKから大リーグ英語に関するガイドブックを出した時、その企画から実況音声のピックアップまですべてを任された僕は、いくら何でも当時のこの英語シロートの僕1人だけの選定言語集にしちゃってイイものか戸惑って、ベイスボールに詳しくてNHKに出入りするアメリカ人に会って取材させてくれと頼んだコトがあったのだった。当時はまだ病気回復直後の松葉杖歩行だったので、現場にはワイフも同行してくれたのだった。「普通じゃない、ベイスボールでしか言わない何か特別な表現があったら教えてチョーダイ」という僕の要請に、真っ先に出てきたのがこのコトバだったのだ。
「塁上で何事か起こるコトを待っている状態の複数のランナー」のコトなので、満塁そのものの表現ではない。腰を屈めて待っている姿勢がカモに似ているのか、そりゃどうも分からないが、天下のNHKの大リーグ英語紹介コーナーの第1回目がコレだもんなぁ〜。以前原稿依頼されて書いた僕の原稿を社内のアメリカ人スタッフの校正で勝手に間違って訂正しちゃったウサギのNOVAと言い、大リーグ英語のまともに分かるヤツはほぼ日本にはいないのである。大リーグ英語と紹介されている情報の半分はデタラメと思おう。
●今日の１句　　だったら進めろ塁球英語辞典なりけり、なはっ
●今日のもう１句　　大音量の名前連呼で痴呆せん