■アート・ペッパー

　去年ぶっ壊れやがった我が家のオーディオアンプはそのまま放置されているんで、この2カ月以上も僕はほぼCD音源による音楽と無縁の生活をしてきた。アナログのレコード時代から含めこんなコトはこれまで経験したことさえなく、ずっと音楽のない生活なんて信じられないと思っていた僕の意識が、ひょっとすると音楽から少し離れちゃったんではあるまいかと不安になった。昼過ぎに恐る恐るアンプ様のご機嫌うかがうように静かに電源スウィッチを入れてみたら、これがONになった。早速Art Pepperの「Tokyo Debut」をかけてみたら、どうにか音が出る。ただし、片チャンネルのみの音なんでバランスを一方に寄せまくってかけておいた。オーディオがあるのは居間兼台所で、僕はその隣の部屋のデスクの前にいるので、別段左右のバランスなんぞにこだわる必要はない。
　それにひても、やっぱりイイのだ。Art Pepper最良の盤というワケではないのに、サイドメンのClare Fischerのキーボードは聴く度にゾクゾクするほどイイ。僕の大好きな曲「Here's That Rainy Day」でのエンディングなんざあんまり美し過ぎて、僕はほぼ毎回パブロフの犬のようにヨダレならぬ涙を流すのだった。おマケにアルバム最後は映画「黒いオルフェ」からのメドレーで、そこでもFischerのつなぎのソロがあんまり素敵で、今ではその細部まで口ずさめるほどなのだ。僕は他では彼の名前をまったく見たこともなく、さっき改めてジャズ人名辞典で調べてみたんだけれど、ウェストコーストでのスタジオミュージシャン的な活動以外、あまり多くは紹介されていなかった。
　あんまりおヒサシ節だったんで、以前はCD音楽が流れている中で平気で原稿作業ができたのに、今日はずっと手拍子足拍子で勝手にカラダが動き出しちゃうんで困った。
　沖縄から河合民子さんが「ゆうべは喜納昌吉さんとこで飲んだ」とメールくれ、「あ、いいナ。ホンモノの歌の傍にいられて」と思ったから、きっとArt Pepperが聴きたくなっちゃったんだろうと思う。
●今日の１句　　独仏の国の気概やそれにつけ
●今日のもう１句　　我がサックスはこっそりケースにお籠もり中