■国立戦没者追悼施設について

　今も、僕は靖国神社付近を通りかかる度にある種の緊張感を抱かない時ははない。あの場所を異様と感じるのは、祀られている人間に戦犯が含まれるとかそういった問題ではない。あの場所には戦後いったん解体されたと思われた国粋主義とか民族主義を頑迷に信奉し、それのみで日本人のアイデンティティを語りたがる人間どもの妄想の空気が蔓延している、と感じるからだ。高校時代に静岡の田舎町から東京の大学見学にやって来た甥は、もうひとつの目的として靖国神社見学を口にした。彼の心にも偏狭な日本人アイデンティティの妄想があったのだろうか。その翌年だったか東京の大学に進学し、卒業後に大手企業に就職した彼は、その後2〜3年会社勤めした挙げ句、郷里に戻って引き籠もりにも似た生活を送っているようだ。因果関係があるとかないとかのことではない。もっと根元的な人間の自由という問題を、この国や彼はどう考えているんだろうか。
　もうだいぶ以前から論議されている靖国神社に代わる戦没者追悼施設を、僕はずっと待っている。靖国と国政、天皇家と国政をきちんと分離することができて初めて、本当の意味での「戦後の終わり」の第一歩だと考えているからだ。その意味で、きっと限りなく永遠に近く、この国に「戦後の終わり」はやって来ないだろうし、「英霊」という美名の元に祀られた戦没者を靖国から一歩も外には出さないという「亡霊」たちの地下で蠢くパワーは、むしろ日増しに大きくなっているような気さえしている。「戦後」は「あの戦後」という注釈付きで言われる日が、もうそこまでやって来ているんだろうな。もし、皮肉な希望というものがあるとするならば、今度の戦没者ばかりは靖国に入らずに新しい国立戦没者追悼施設に入れてもらえるのかも知れない、ということだ。
　北朝鮮による拉致被害者を救うための国会議員による通称「拉致議連」の中身を見ても、妄信的靖国信奉者はいるワケで、そういう連中の人権感覚や歴史認識なんてものを信用しない僕は、あの問題でも拉致被害家族会当事者以外の国会議員の発言もえげつなく気色悪いものだと思って聞いている。
●今日の１句　　万歳とあげて行った手を大陸へおいて来た(鶴彬の川柳)
●今日のもう１句　　手と足をもいだ丸太にしてかへし(同上)