■田舎コトバの再現力

　今朝の朝日新聞朝刊で見つけたコラム「岸本加世子の台本にないセリフ」を読んで、大いにビックリした。女優・岸本加世子サンそのものを、僕はほとんどドラマを見ないヤツなんでよくは知らない。それでもこのコラムはさすが女優という職業柄なのか、発話されるコトバに対する鋭敏な観察力が感じられて感心した。
　捨て猫を拾ってしまうその性分は母親譲りという主旨で書かれた文章の中の、母親が語ったとされるカギカッコ部分の一部を抜き出してみる。
「あん時のこたあ、一生忘れられんよ！」
「(略)その猫んな、(略)目を見てミャオーって鳴いただよ！」
「(略)嘘じゃないだよ。猫は道を覚えるって言うけえが、帰ってきただよ！」
　ふんむむ。こりゃ、僕が育ったシゾーカ県西部の遠州地方の方言じゃないのか？　昔聞いた懐かしいイントネーションで語られたコトバなんじゃないのか？
　岸本サンの履歴を知らないが、すくなくとも岸本サンの母親はシゾーカ県西部から愛知県東部あたりのご出身なんじゃなかろうか？　などと思う。
　で、僕がこういうコトにこだわりを持つのは、たまに田舎の母親と電話で話せばごく自然に感じられる遠州弁でも、それを文章で再現しようとするとまるでアタマの中に入っていなくて、それどころか身に染みついちゃった方言話者でなかった子供時代のツケが、今さらながらに悔やまれてならないのだ。
　方言のスゴいところは、固有の風景描写なんぞをしなくてもそこに景色が現れてくるコトにあり、方言によるセリフは、これもまた周辺説明抜きで人物像を描き切る手助けになってくれるはずなのだ。そう考えると、つくづく20年間も暮らした田舎コトバをマスターしていなかった自分の意固地を反省するばかりだ。
●今日の１句　　ああ嘘でもいいからインテリになりたい
●今日のもう１句　　歳暮品に惰眠破られ朦朧の午後