■詐欺師という美し過ぎる職業

　昨夜ワイフは翻訳関係の忘年会で、お仲間から「ミキオさんの腰痛はどう？」と問われたらしい。元気です。あっと言う間に治っちゃいました。それから、「夫婦2人きりになって以来、あちこち一緒に出掛けて、ホントに仲がイイんだから」とも言われたみたいだ。それを聞いた僕がワイフに、「あのロクデナシは他の女性ともおデートばっかりしていやがるのヨ、とか何とかは言わなかったの？」と発言したら、「そんなキミの株を上げる話題をワタシはしないワ」と返答された。やっぱりそうか。いろんな女性とおデートするのは、僕の株が上がる所業なのだった。きゃははのホホホ。頑張るゾ。
「CBSドキュメント」でクリス・ロカンコートに関するリポートを見たのは、昨夜で何度目だっただろう。フランス生まれの若き天才詐欺師。コトの顛末を何度聞いても、どうしてそんなコトになっちゃったのかはまるで判然とせず、従ってロカンコートが極悪非道な詐欺師などとは露ほども思えず、むしろ呆れ果てが転じて好感さえ抱いちゃう人間が多くいるはずなのは、リポートを見ていれば分かるのだ。
「他人を演じて高額なギャラを手に入れるハリウッドスターと同じだヨ」と彼が言うのは、「CR」という本物のイニシャル内でさまざまな偽名を使いまくり、偽のサインのほとんどが大金をせしめる道具となったからだった。フランス生まれの「ロックフェラー一族の末裔」とか何とか、少し注意を払えば分かりそうなウソを堂々とつき通す無邪気。昨日のリポートはカナダ・バンクーバーの拘置所からのもので、些細な額で訴えられた上での拘留期間が判決によって決定された刑期に達したので、放送時には彼は晴れて自由の身になっているのだそうだ。
　フランス南部の船乗りと売春婦との間に生まれ、15歳までを孤児院で過ごしたこの若者が欺き続けた相手はどうやら大物ばかりで、ハリウッドスターや敏腕プロデューサー、さらにはアラブの王族やら果てはF1フェラーリ・ティームまでも含まれるんだそうだ。「こんな見栄えのしない無教養のフランスのガキが」というナメてかかった質問やナレイションが聞こえてくるんだけれど、その実、インタビューしているリポーターの目はどこか憎めない小僧を見る目つきで微笑んでいるのだった。
　巨額詐欺に関する立件ができないのは、被害者側があまりに「セレブ」で、こんなチンピラに手もなく騙されたコトを公にしちゃ名誉にかかわるってコトらしい。すでに彼は結婚していて、その相手はかつてのPLAYBOY誌を飾ったプレイメイト嬢で、詐欺師はすでに立派な「セレブ」の仲間入りを果たしちゃっているのだった。つまりバカの仲間入りのコトだ。こりゃもう、カンペキに美しい詐欺師という職業物語である。ああ、才能がありゃ見習いたい。
●今日の１句　　日朝の凡庸なる国家的詐欺合戦だ
●今日のもう１句　　開いた口が塞がらないほど愛されるウソ