■怒濤の長電話

　午後、おヒサシ節の若い女性から電話が掛かってきた。生まれた時から知っている女の子がすでに21歳となり、元気に1人暮らししているアパートからの電話で、一丁前のオトナとして扱わなくてはならない会話の不自由さが面白いのであった。彼女は子供扱いするときっと怒るのだろうし、すでに結婚も離婚も経験してるんで、そりゃ立派なオトナではある。詩を書くし、バンドもやるから、僕の興味や関心のある世界に近いところで何事かをやっているんで、自然に会話は無尽蔵にふくらむ。おマケに男女間の感情の機微については、「今、生々しく若い時代を生きている」ワケだから、コトバの密度や切実さという点でも当然ながら濃くなる。こちらが中途半端に自由人を気取っても、すぐに底を見透かされるんで、いきおい慎重に返答のコトバを選ぶし、どんなコトバを持ち出しても徒労に終わることさえある。一言で言えば、会話するのにこれほどメンドクサい相手はいないワケで、それは僕の最も好きな会話であると言えば言えなくもない。がは。
　近況報告、音楽談義、恋愛談義と、いつ果てるともない会話が予測できて、市外電話の料金を心配して掛け直しを打診したら「ダイジョーブ。今は週5日バイトしてるから」の返事。だからと安心して相槌打ったり反論してたら、あっと言う間に1時間半以上は経過しちゃったはず。受話器持つ手首のクタビレで、それに気がついた次第だ。 「おいおい。ひでぇ長電話になっちゃったゼ」と言ったら、「ひゃ〜。バイトして稼がねばぁ〜ッ！」と前向きな発言。彼女の「友人がミキオおじさんに会ってみたいって言ってる」の言を受けて、ほんじゃ近々どっかで会おうゼとなった。
　そうなのだった。考えてみると僕のコトを「ミキオおじさん」と呼んでくれる関係性にある甥や姪は数人いるはずなのに、それらの人間との交流はまったくなく、他人ではあっても友人の娘の彼女だけは、ずっと僕のことを「ミキオおじさん」と呼び続けるのだろうナ。ふんむむ。この関係は微妙に、繊細に、大事にしなくちゃならない、と思う僕なのであった。気づいたら、長電話の間にショートホープ1箱が灰になって消えていた。ふ〜、クタビレた。
●今日の１句　　お客様のお掛けになった番号は現在使われています
●今日のもう１句　　寝覚めの電話外はもう闇