■バーカウンターという特別な場所

　生前の義父・江崎誠致に連れられて行った新宿歌舞伎町のバー「ナルシス」のカウンターは、暗黙の内に座席指定がされている感じで、義父はいつもいちばん奥のコーナーに陣取り、僕は隣席にこそっと腰を下ろすのだった。どんなバーもそうだろうが、バーカウンターには客のヒエラルキーが浮き彫りになるものだ。そのヒエラルキーとは、単に常連度とか地位や羽振りで決められるものではなく、言ってみれば、その人物がその位置に陣取っていると、バーの様子としていちばん収まりがイイという雰囲気のコトである。
　昨晩は、若い詩人の堀江美奈子さんにお声を掛けていただき、毎度お馴染みのジャズバー「サムライ」に出掛けた。彼女の方からの申し出の通り、約束したのがカウンターだったので、そこでおデートと相成った。僕が席を指定するのなら、きっと別のボックス席にしたかも知れない。なにしろカウンターは、ここでも特別の場所だ。
　残念ながら「サムライ」のカウンターは座席数たった3つの狭き門で、僕ら2人が座るというコトは、ほぼ専有状態である。遅れて、いつもの僕の泥酔フレンド三亀さんが姿を現したが、こちらのおデート状態に気を使ってかご自分は1人寂しそうにボックス席で飲み始めた。そしてほどなく風邪っぴきを口実に「それじゃ」ってんで帰っていっちまいやがった。くっそ。
　僕からすれば、彼の指定席を奪った思いもある。他に女装の麗人ミドリさんや名前を存じ上げない少数の常連客こそが、「サムライ」カウンターには似合うのだ。
　以前、図々しくも店主・宮崎二健さんに「もっとカウンターを伸ばして座席数を増やしてチョーダイ」と要求したことがある。「あたしゃ口ベタで接客がニガ手」だと。それだからこそ余計にカウンターに風情が出るってもんなのになぁ〜。
※堀江美奈子さんから頂いたコピーの手作り詩集。帰りの電車で読み始めたら面白く、僕にしちゃ珍しく電車を乗り過ごすところだった。
●今日の１句　　水道に蛇口がつくまで72時間
●今日のもう１句　　おデートのついでに友人合流を目論むフトドキ