■祈りには参加できない

　朝日新聞夕刊「ステージ」欄に、この10月30日東京文化会館で行われたキース・ジャレットのコンサート評があった。悠雅彦という音楽評論家の一文。
「……ひたすら聴衆と一条の光で結ばれあう関係を生む音の創出に集中した結果、会場を一種の教会に変えてしまった。」
　もう10年も前に、僕が新宿厚生年金会館で聴いたコンサートのイメージそのままなんで、少し驚く。ジャズクラブはもちろん、これまでに僕は大ホールで行われた数多くのジャズのコンサートを聴きに行ったことがある。ホールではないが、その中にはあの伝説のマイルス・デイビスの新宿西口野外コンサートもあった。「金返せ」という感想だったことを覚えている。ひゃは。
　さて、キース・ジャレットは大天才だ。ものすごいピアニストにして、即興演奏の醍醐味を彼のように演じきれるミュージシャンは、今日において他に知らない。CDを聴くだけで、大いに興奮させられる。だけど多分、僕は日本で行われる彼のコンサートに出掛けることは2度とないだろうナ、と思う。
　このHPの別の原稿でも書いた通り、僕が厚生年金会館で聴いたコンサートもまた、「まるで敬虔な信者ばかりが集まった大ミサ式」みたいだったのである。悠氏が書いている通り、「会場を一種の教会に変えてしまった」原因は、どうやら聴衆の側にもある気がしてならない。異様に熱心なファンばかりが集まる空間というモノに、僕はどうも馴染むことができないタチなのかも知れない。「気持ち悪い」というのが、当時の僕の感想だった。キース・ジャレットの演奏自体はそれなりに楽しめたが、サイドメンの緊張感とキースに対する敬虔なまでの信奉の態度というのも、少し息苦しかった。引用した悠氏の前文にはこうある。
「……それは単なるヒーリングミュージックとは次元の違う祈りのようなものだった」
　この空気が、大ホールの全体を支配するのである。音楽は本来、百人百様の聴き方をされてこそ魅力があるはずで、僕の体験も、悠氏の記述も、いずれも集団催眠のような状態を意味しているので、僕はなんだか薄気味悪く感じちゃうんだよナァ〜。
　そこ行くってぇと、ジャズクラブのようなバリアフリーの空間で、あっちは演奏するヒト、こっちは飲んで騒ぐヒトのリラックス空間が、やっぱり僕には向いているのかも知れない。そういう時、そういう空間の方が、変にテンションのかからない分だけ、ナマの音楽の魅力をダイレクトに感じ取れるんだよナァ〜。
●今日の１句　　情に拉致されたようにも見えるんだ
●今日のもう１句　　新配線でまたもコンピュータに繋がれる