■その程度の酒好きか？

　発泡酒という奇妙な疑似ビール発売からだいぶ経つ。自分で買い求めたことはないけれど、ウチに配達してくれる近所の酒屋から、これまでに数種類の試供品をおマケに頂戴したことがある。なんだ、ありゃ？　重税感にあえぐ庶民のニーズに応えるという美名のもとに、メーカーが酒税の抜け道を見つけて作りだした苦肉の商品とは思うが、ありゃ間違ってもビールの代替品にはなりっこない。僕には、単にビールを水で薄めたとしか思えない飲み物で、メーカーはともかく、消費者が草木がなびくように発泡酒に流れていくサマを見るにつけ、ちょっと情けない気がする。デフレ社会の申し子のように誕生、隆盛、大人気へと拡大している様子だが、元来酒飲みも酒造メーカーも、お互いのガンコさを競い合う姿に醍醐味があるワケで、両者にその偏屈な意志が失われたことを、僕は由々しき精神文化の問題だと思っている。
　昔読んだ漱石の作品中に「ビール」という単語の代用語として「エビス」を見つけたことがあった。２０年ほど前に「エビスビール」のラガーが復刻し、数年後に消えたことがある。当時僕は、喜び勇んでエビスのラガーを飲んでいたし、大好きな神田「やぶ蕎麦」に置かれていたのも同じラガーだった。その後「生タイプ」だけが残っているのだが、それもまた似て非なるモノで、僕はここ１０数年間、別のメーカーの１種類のみを愛飲している。年間１５００本近く飲んでいるはずだから、大変な酒税貢献だ。がはは。