■トニー・ベネットよ、お前もか

　今朝から、大リーグのワールド・シリーズの舞台がサンフランシスコに移った。地元初お披露目なんで、アナハイムで行われたのと同様に晴れがましいセレモニーがここでも行われる。ナショナル・アンセムに代わって歌われたのは「America The Beautiful」で、「I Left My Heart In San Francisco」の大ヒットで有名な歌手トニー・ベネットが無伴奏で歌った。彼の独特のハスキーヴォイスが映像付きで聴けたのは久し振りだし、半分ウレシーような悲しいようなフクザツな気分。ベネットは多分、そのしゃがれた声とは裏腹に音楽性の緻密さにおいてジャズ史上最高の質を持つ歌手で、今日のような歌が似つかわしいとは、ジャズファンの誰も思っていないだろう。クラシックに限らず、民族音楽もポップスも、果てはあらかたのロックミュージックも、時代の政治や権力に圧倒的に利用されまくってきた歴史がある中で、ジャズという音楽とりわけモダンジャズは集団的人心の鼓舞とは無縁の立場をいつもとってきたはずだ。60年代ジャズが少し小難しくなってメッセージ性が高いと言われた時代でも、それを受け止めるのは個人であった。ロックとはそこのところが決定的に違うと僕は思っている。上述の「アメリカ愛国心目一杯ソング」には他に「God Bless America」なんかもあるワケで、これらの歌は昨年の9.11以降耳にタコができるほど、と言うより耳からヘドが出るほど聞かされて、ヤバいコトに今じゃ歌詞の細部まで聞き取れちゃうし、ヘタすりゃ無意識の内に鼻歌として口ずさんちゃってる場合もある。くっそ。
　昨年のワールド・シリーズでは、アリゾナであのレイ・チャールズが登場しカラオケをバックのピアノ弾き語りでとっちらかっていた。日頃まるで好きでもなかったハリー・コーニック・ジュニアという若いジャズシンガーだけは、昨年のNBA開幕戦でスウィングしまくりの「God Bless America」を歌って、少しだけ僕の溜飲は下がった。
　それにしても、ヤバい国だよナァ〜、アメリカは。セレモニーの最終盤にゃジェット戦闘機が飛来して盛り上げるのが通り相場だし、こないだのアナハイムの開幕戦で飛来したのはステルス戦闘機だゼェ〜。クワバラクワバラ。
●今日の１句　　霧の街もレーダー網完備です
●今日のもう１句　　産学も軍楽も共同体